
人事制度は、入れた時点では何も起きません。8月に発表された2本の調査を並べると、成果の差が開く場所が見えてきます。制度の設計そのものではなく、導入したあとに何回手を入れたか。制度づくりを終えた会社にも、これから着手する会社にも当てはまる話です。
Pickup:今日の注目
① 制度を入れた企業の約2割が、成果を実感できていない(PR TIMES/リクルートマネジメントソリューションズ・日経BP調べ)
職務・役割型の等級制度を一部でも導入している従業員300名以上の企業の人事担当者を対象にした調査で、各目的について成果を実感している層が約半数、実感できていない層が約2割という結果が報じられています。分析では、関連施策の実施数が7〜15の企業とそうでない企業のあいだで、採用力強化の成果実感に55.4ポイント、成果による処遇のメリハリに53.2ポイントの差がついたことが示されました。運用上の障壁として挙がった上位は、人事部の人員不足が34.3%、管理職の知識・能力不足が29.4%です。
採用する企業なら:50ポイントを超える差が「制度の種類」ではなく「施策の数」でついている点が実務的です。等級を切り直すより、その制度に紐づく面談・研修・公募・説明の機会を何回作れたかが効いている、と読めます。中小・ベンチャーであれば、新しい制度を1本増やす前に、いまある1本に年何回手を入れるかを決めるほうが、同じ工数で成果に届きやすいはずです。逆に言えば、手数を確保できない制度は、設計がどれだけ精緻でも約2割の側に入ります。
転職を考えているなら:面接で制度の名前を聞いても、稼働しているかどうかまでは分かりません。社内公募や等級の話が出たら、「その仕組みで昨年は何人動いたのか」を聞いてみてください。数が出てくる会社と、制度の説明に戻る会社では、入社後に使える仕組みかどうかが違ってきます。
知っておきたいのは、成果が一度の設計からではなく、繰り返しの回数から出ているという構図です。
出典:PR TIMES(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)(2026年8月24日・本文は転載せず要約しています)
② 人事部の課題の上位に、人員不足と専門性不足が並んだ(HRプロ/パーソル総合研究所調べ)
係長以上の正規雇用者および経営・役員2,000名を対象とした調査で、人事部の課題として「人員不足」が45.2%、「専門性不足」が44.6%、「企画構想力の低さ」が39.3%と報じられています。あわせて、人事部内でのAI活用率は39.2%である一方、人事部が主導するAI活用は「取り組みなし」が45.6%でした。
採用する企業なら:人員不足と専門性不足がほぼ同率で並んでいることに意味があります。人を1人増やしても専門性は埋まらず、詳しい人が1人いても手が足りない状態は変わらないからです。専任の人事がいない規模の会社では、制度の担い手が「余力のある誰か」になりがちですが、余力は最初になくなる資源です。担い手を決めるときは、名前と一緒に年間の回数を決めておくと、動かない制度になる確率が下がります。
転職を考えているなら:人事の体制を面接で尋ねるのは、失礼な質問ではありません。何人で、どこまでを見ているのか。その答えは、入社後に評価や配置の相談を誰にすればいいのかという、かなり実際的な情報になります。
押さえておきたいのは、AIを人事に入れる話の前段に、そもそも回す人が足りていないという現実が置かれている点です。
出典:HRプロ(2026年8月13日・本文は転載せず要約しています)
2本を重ねると、ひとつの噛み合わせが見えてきます。片方の調査は、手数を打った企業ほど成果を実感していると示しました。もう片方の調査で挙がったのは、その手数を打つ側の人事部に、人員も専門性も足りていないという回答です。成果の差が50ポイント以上つくと分かっている打ち手があり、打つ人がいない。多くの会社で起きているのは、制度の失敗というより、この構造のほうです。
だとすれば、着手の順番は制度の中身より前に来ます。制度1本につき、誰が、年に何回手を入れるのか。これを先に決められないなら、その制度は今はまだ入れないという判断のほうが、おそらく健全です。入れたのに動かない制度は、成果がゼロでは終わりません。残るのは、うちの会社は言うだけで実際には何も変わらない、という社員側の学習です。一度そう学習されると、次に本気で始めた施策も同じ目で見られます。
この学習がいちばん早く定着するのは、入社して間もない人たちです。説明された制度と実際の運用のあいだにずれがあると、若手はそれを会社の姿勢として受け取ります。入社後の数か月で何がその判断材料になっているのかは、早期離職を防ぐにはで扱っていますので、制度の運用計画を立てる前に一度目を通してみてください。順番としては、こちらを見てから回数を決めるほうが、決める数字が変わってくるはずです。
制度の数は、会社の本気度を表しません。表しているのは、その制度に手を入れた回数のほうです。
本記事の見解はWeaveXによるものであり、引用元各社の見解を代表するものではありません。調査数値は各調査の回答者の認識に基づくものであり、調査規模・対象・実施時期はそれぞれ異なります。



