
転職活動の下調べに生成AIを使う人が、口コミサイトを使う人の倍になったという調査が8月末に公表されました。企業研究の入口が、検索や口コミから対話へ移りつつあるという話です。ただ、手段が変わったときに本当に変わるのは、手元に集まる情報の中身のほうです。8月に出た2本の調査から、下調べの何が速くなり、何は速くならないのかを整理します。
Pickup:今日の注目
① 転職の企業研究で、生成AIが口コミサイトの倍を超えた(AMP)
Iteraが2026年8月26日に全国の会社員5,000名へ実施した調査のうち、過去1年以内に転職活動をした880名を分析した結果が報じられています。企業情報を集める手段は転職サイト・エージェントが48.64%で最多、企業の公式サイトが34.32%と続き、生成AIは26.02%。口コミサイトの12.50%を上回りました。AIに尋ねた内容は、事業内容や評判が59.24%、年収・待遇の相場が53.82%と報告されています。
転職を考えているなら:年収相場をAIに聞くのは、理にかなった使い方です。あちこちに散らばった公開データを束ねて平均を出すのは、AIがいちばん得意とするところだからです。気をつけたいのは、その得意さがそのまま返ってくる点にあります。返ってくるのは、多くの人が語ってきたその会社の姿。あなたがその会社でどうなるかは、平均の外側にあります。下調べが短く済むようになったぶん、差がつくのは空いた時間の使い道のほうです。
採用する企業なら:候補者は応募の前に、AIというフィルターを通して自社を見ています。ここで効いてくるのは、公開している文章が要約に耐えるかどうか。書かれていない情報は、要約もされません。事業の説明が抽象的な会社ほど、当たりさわりのない平均的な像に丸められたまま候補者に届く、という構図です。
知っておきたいのは、順位が入れ替わったのは手段だけではないという点です。誰かの主観だと分かって読む口コミを、出典の見えない要約が上回りはじめました。
出典:AMP(2026年8月27日・本文は転載せず要約しています)
② AIを使った人の約9割が、企業選びに影響を受けたと答えた(PR TIMES/SPC調べ)
SPCが2026年7月24日から28日に20代から50代の206名へ行った調査では、就職・転職活動でAIを使った経験があるのは41%、生成AIが普及して以降に活動した人に限ると約57%だったと報告されています。そのうち約90%が、AIの回答が企業選びに影響を与えたと回答。調べた内容として挙がったのは、企業概要、福利厚生や残業時間などの働きやすさ、職種ごとの仕事内容、そしてハラスメントの有無といったネガティブ情報でした。回答者は206名と小規模ですので、傾向として読むのが妥当な調査です。
転職を考えているなら:約9割という数字が示しているのは、下調べがそのまま判断に効きはじめたという事実です。だとすれば、結果を左右するのは打ち込む質問の作り方。「この会社は働きやすいですか」と聞けば、平均の答えが返ってきます。「残業時間はどの資料に載っていて、いつ時点の数字か」と聞けば、確かめる作業に変わります。とくにハラスメントなどのネガティブ情報は、AIの回答をそのまま真に受けないでください。古い話、出典の分からない話、同名の別会社の話が混ざります。名前が挙がったときに一次情報まで自分で降りるかどうかは、あとから効いてくる差です。
採用する企業なら:候補者は、すでに調べ終えた状態で面接に座っています。会社概要の説明に時間を割く設計は、そろそろ見直しどき。むしろ、AIには書かれていない情報こそ面接の持ち場になります。配属先の実際の一日、直近で失敗した施策、去年その職種で辞めた人が何に困ったのか。
押さえておきたいのは、AIが答えているのは「多くの人にとってどうか」であって、「あなたにとってどうか」ではないということです。
出典:PR TIMES(株式会社SPC)(2026年8月5日・本文は転載せず要約しています)
2本を重ねると、企業研究にかかる時間が確実に短くなっていることが見えてきます。以前なら、口コミサイトを何ページもめくり、有価証券報告書を開き、知り合いをたどって話を聞いていた作業が、数回のやりとりで一通り片づく。これは素直に良い変化です。
ただ、短くなったのは調べる時間であって、決めるための材料が増えたわけではありません。AIが束ねてくれるのは、すでに誰かが公開した情報です。逆に言えば、誰も書いていないことは出てきません。その会社で自分の一日がどうなるか、いま抱えているもやもやがそこで晴れるのか。この一人分の問いには、参照できる公開情報がそもそも存在しません。
さらにやっかいなのは、この問いが自分の側で言葉になっていないと、AIに打ち込む一行にすらならないことです。「働きやすい会社を教えて」としか書けないとき、足りていないのはAIの性能ではなく、何を確かめたいかという条件のほうです。その条件をどう掘り出すかは、キャリアの軸の見つけ方で扱っています。企業研究を始める前にそちらを開くと、AIに投げる一行目が変わるはずです。
会社のことは、これまでより速く分かるようになりました。速く分からないままなのは、自分が何を知りたかったのかのほうです。
本記事の見解はWeaveXによるものであり、引用元各社の見解を代表するものではありません。



