賃上げでは差がつかない、育て方では差がつく
2026.07.307分で読める
#採用市場#制度設計

人が採れない、辞めてしまう——その対策として最も多くの企業が選んでいるのは、賃金を上げることです。ただ、同じ時期に上場企業の平均年収も過去最高を更新しており、金額の勝負では追いかけ続けることになります。今日は3本の調査を並べて、「みんながやっていること」と「まだ手薄なこと」の差を、中小・ベンチャーの人事の視点で整理します。

Pickup:今日の注目

① 中小企業の定着策、7割超が「賃上げ」(日本政策金融公庫 総合研究所)

日本政策金融公庫 総合研究所は、取引先12,632社を対象とした調査(調査時点:2026年3月中旬、有効回答4,123社・回答率32.6%)の結果を2026年6月19日に発表しました。従業員を定着させるために実施していることは「基本給や賞与等の引き上げ」が73.0%で最も高く、「休日の増加」42.9%、「労働時間の削減」28.5%が続きます。上位10項目のうち、育成や昇進に関わる項目は「資格取得費用の補助制度の導入」14.5%、「昇給・昇格基準の明確化」14.0%と下位にとどまりました。採用面では、正社員の採用予定者数に届かなかった企業が新卒採用で約4割、中途採用で約3割にのぼったと報じられています。

WeaveXの視点

採用する企業なら:73.0%という数字は、「賃上げが効く」という意味と同時に「ほぼ全員がやっている」という意味でもあります。7割の企業が実施している施策は、それをやっても他社と横並びになるだけで、選ばれる理由にはなりにくいものです。注目したいのは下位にある14.5%と14.0%のほうです。資格取得の支援や、昇給・昇格の基準を明文化することは、原資よりも設計と運用の手間が効く領域で、しかも8割以上の企業が手をつけていません。自社の定着策リストを、「多くの会社がやっていること」と「やっていないこと」に分けてみるところから始められます。

転職を考えているなら:求人票の給与欄は比較しやすい一方で、昇給・昇格の基準が示されているかどうかは見落としやすい情報です。入社後3年で自分の待遇がどう変わりうるのかを面接で確認すると、初年度の金額だけでは見えない差が浮かび上がります。

押さえておきたいのは、多くの企業が実施している施策は「守り」にはなっても「違い」にはなりにくい、ということです。

出典:日本政策金融公庫 総合研究所(2026年6月19日・本文は転載せず要約しています)

② 上場企業の平均年収は692.6万円で過去最高、二極化も進む(HRプロ)

帝国データバンクの「平均年間給与」動向調査で、2025年度決算期の上場企業約3,700社の平均年収が692.6万円となり、前年の671.1万円から21.5万円(3.2%)増えて過去最高を更新したと2026年7月27日に報じられています。1,000万円を超える企業は235社(6.4%)で過去最多となった一方、「500万円台以下」の企業も全体の34.8%を占め、賃上げを進められる企業とそうでない企業の二極化が広がっていると指摘されています。

WeaveXの視点

採用する企業なら:①の調査で7割超の企業が賃上げに動いている一方、比較される相手の水準も同時に上がっています。追いかける競争を続ける限り、原資の差はそのまま結果の差になります。ここで有効なのは、金額の絶対額ではなく「その金額がどう決まるか」を明示することです。何ができるようになれば給与がどう変わるのか、その道筋を言葉にできている会社は、支払える上限が同じでも候補者にとって意味が違って見えます。求人票の給与レンジの下に、昇給の判断基準を1段落添えるだけでも、伝わる情報量は変わります。

転職を考えているなら:年収の水準は業界と企業規模で大きく変わるため、同じ職種でも比較の土台がずれていることがあります。提示額そのものより、その水準に至る条件と、自分がそこへ届く経路を確認するほうが判断材料になります。

なるほどと思える点は、平均が上がるほど「平均との差」で語る採用は不利になり、「自社の中での伸び方」で語る採用が相対的に強くなる、ということです。

出典:HRプロ(2026年7月27日・本文は転載せず要約しています)

③ 成果につながるのはOJT、ただし品質のばらつきが最大の課題(HRプロ)

シェルパス株式会社が20代〜50代の会社員・公務員400人を対象に実施した「集合研修とOJTに関する実態調査」(調査期間:2026年7月22日〜23日)で、成果につながるのはOJTだと考える回答が約58%に達し、集合研修寄りの回答は11%にとどまったと2026年7月28日に報じられています。一方でOJTの課題としては「指導員のスキルや熱量によって育成の質にばらつきが出る」が59%で最多、「指導員の業務負担が大きく通常業務が圧迫される」が53%と続きました。

WeaveXの視点

採用する企業なら:OJTが成果につながるという実感は強い一方、その質は指導する人によってばらついています。裏を返せば、ここは資金力ではなく設計で埋められる差です。着手しやすいのは3点です。ひとつ、最初の3か月で何ができるようになってほしいかを、指導員ごとの裁量に任せず共通の到達目標として書き出すこと。ふたつ、指導にかかる時間を業務時間として認め、指導員の担当業務から差し引くこと。みっつ、指導の出来を評価対象に含めること。負担を減らさずに「丁寧に見てあげて」と依頼するだけでは、59%のばらつきは縮まりません。

転職を考えているなら:入社後にどう育てられるかは、配属先の上司ひとりで大きく変わりえます。面接で「入社後3か月の教育担当は誰で、その方は指導のための時間を持っているか」を尋ねると、制度の有無より実態がつかめます。

知っておきたいのは、育成がうまくいかない原因は多くの場合、教える側の熱意ではなく、教える時間が確保されていないという構造の側にある、ということです。

出典:HRプロ(2026年7月28日・本文は転載せず要約しています)


3本を並べると、人材確保の主戦場が見えてきます。賃上げは7割超の企業が実施しており、しかも比較される上場企業の水準は過去最高を更新し続けています。つまり金額は、やらなければ不利になるけれど、やっても差にはなりにくい領域です。対して、昇給・昇格基準の明文化(14.0%)や資格取得の支援(14.5%)、そしてOJTの品質と指導員の負担の設計は、いずれも大半の企業がまだ着手しておらず、必要なのは原資よりも決めごとと運用です。中小・ベンチャーにとって現実的な勝ち筋は、「いくら払えるか」の競争から降りることではなく、その競争の外側に、入ってからの伸ばし方という別の軸を立てることだと言えます。入社直後の設計をどう組むかについてはオンボーディングで早期戦力化で手順に分けて扱っていますので、育成の見直しに着手する際の下敷きにしてみてください。

本記事の見解はWeaveXによるものであり、引用元各社の見解を代表するものではありません。調査数値は各調査の回答者の認識に基づくものです。

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