
8月に入り、新卒採用は「もう終わった話」に見えるかもしれません。ところが7月末から8月にかけて出そろった調査を並べると、学生側と企業側で見えている景色がはっきり食い違っていることが分かります。決まった学生は8割を超え、それでも企業の採用枠は半分ほどしか埋まっていない。今日は、この食い違いが中小・ベンチャーの採用にとって何を意味するのかを整理します。
Pickup:今日の注目
① 7月末の内々定率は84.8%、文系は3人に1人がまだ動いている(HRプロ)
学情が27卒の学生182人に実施した調査(調査期間:2026年7月24日〜31日)の結果が2026年8月5日に報じられました。7月末時点の内々定率は84.8%で前月から2.5ポイント上昇したものの、前年同時期の87.8%を下回り、前年割れは5か月連続とされています。文理の差も開いており、文系は80.9%、理系は92.7%。就職活動を継続している学生は文系で32.6%、理系で18.3%と報告されています。
転職を考えているなら:この数字は、同じ市場でも文系と理系で温度がまったく違うことを示しています。今の職場が「うちの業界は人が採れない」と言っていても、それが労働市場全体の話とは限りません。自分の職種・専門が市場でどちら側にいるのかは、求人倍率などの職種別データで一度確かめておくと、転職の判断材料になります。
採用する企業なら:8月に活動している学生は「余りもの」ではありません。文系の3人に1人が動いているということは、母集団としてまだ十分な厚みがあるということです。特に、春の一斉選考では大手のスケジュールに埋もれてしまう中小・ベンチャーにとって、相手がじっくり企業を見比べられるこの時期は、むしろ話を聞いてもらいやすい時間帯だと考えられます。
押さえておきたいのは、内々定率という一つの数字の裏で、文系と理系の差が11.8ポイントまで開いているという点です。市場の平均値だけを見ていると、自社が向き合っている相手の状況を読み違えます。
出典:HRプロ(2026年8月5日・本文は転載せず要約しています)
② 採用充足率の平均は54.3%、選考を終えた企業は22.3%だけ(PR TIMES/キャリタス調べ)
キャリタスのキャリタスリサーチが1,022社を対象に実施した調査(調査期間:2026年6月29日〜7月8日)の結果が2026年7月27日に発表されました。「完全に売り手市場」と答えた企業は減少に転じたものの、9割以上は依然として売り手市場と認識しているとされています。採用充足率の平均は54.3%にとどまり、選考を終えた企業は全体の22.3%のみ。選考を継続している企業の半数以上が、予定数の充足は難しいと見ていると報告されています。
転職を考えているなら:企業の8割近くがまだ選考を続けているという事実は、募集要項が公開されていない枠がまだ動いている可能性を示しています。第二新卒での転職を考えている人にとっても、夏から秋にかけては「新卒で埋まらなかった枠が若手中途に振り替わる」時期にあたります。求人票が出るのを待つより、気になる企業に直接問い合わせるほうが早い場面があります。
採用する企業なら:充足率54.3%という数字は、採れていないのが自社だけではないことを意味します。ここで冷静に見ておきたいのは、残りの枠を埋める手段として「日程をさらに前倒しする」という選択肢が、すでに効きにくくなっていることです。年内に面接を始める企業が4割を超えるなかで、前倒し競争は体力勝負になります。中小・ベンチャーが同じ土俵で消耗するより、いま動いている学生に対して何を提示できるかを考えるほうが、費用対効果は高いと考えられます。
知っておきたいのは、売り手市場という認識と充足率の低さが同時に起きているとき、不足しているのは応募数ではなく「決め手」であることが多い、という点です。
出典:PR TIMES(株式会社キャリタス)(2026年7月27日・本文は転載せず要約しています)
③ 若手の約9割が、選考の途中で志望度を下げるか辞退している(PR TIMES/No Company調べ)
No Companyが2023年4月〜2026年4月に新卒入社した社員408名に実施した調査(調査期間:2026年6月4日〜6日)の結果が2026年7月2日に発表されました。人気企業の選考について、約9割が途中で志望度の低下または辞退を経験したと回答したとされています。その理由として、他社の内定に続いて「説明が抽象的で働く姿が見えなかった」「自分とカルチャーが合わないと感じた」が挙がりました。また、就職企業人気ランキングについては「知らなかった」という回答が最も多く、エントリーのきっかけは企業の採用サイトが最上位、信頼できる情報としては残業や有給休暇などの数字での開示が重視されていると報告されています。
転職を考えているなら:辞退理由の上位が「働く姿が見えなかった」であることは、逆に自分の企業選びのチェックリストにもなります。面接で会社の説明を聞いたあと、自分がその職場で月曜日の朝に何をしているか具体的に想像できるかどうか。想像できないなら、それは自分の理解不足ではなく、情報が足りていないサインかもしれません。遠慮なく聞いてよい部分です。
採用する企業なら:人気ランキングを「知らなかった」という回答が最多という結果は、知名度の差が以前ほど選考の入口を左右しなくなっている可能性を示しています。これは中小・ベンチャーにとって不利の縮小です。代わりに効いてくるのが、採用サイトに置かれた具体性と、残業・有給といった数字の開示です。抽象的な理念の文章を磨くより、「入社1年目が実際にどの業務を担当し、何時に帰っているか」を一つ書き足すほうが、辞退理由の上位を直接つぶせます。
なるほどと思える点は、若手が見ているのが企業の順位ではなく、自分との合致だということです。順位は上げられませんが、合致は情報の出し方で伝えられます。
出典:PR TIMES(株式会社No Company)(2026年7月2日・本文は転載せず要約しています)
3本を並べると、この夏の採用の構図が見えてきます。学生の8割は決まり、それでも企業の枠は半分ほどしか埋まっていない。両方が本当であるということは、市場に人がいないのではなく、出会いが噛み合っていないということです。そして噛み合わない理由として若手が挙げたのは、企業の知名度でも待遇でもなく、働く姿が見えなかったことでした。ここから導かれる打ち手は、意外なほど地味です。日程を前倒しする、露出を増やす、といった従来の手は、資金力のある企業ほど強くなる勝負です。対して「入社後の一日を具体的に書く」「数字で開示する」は、規模に関係なく明日から着手できて、しかも辞退理由の中心を直接扱えます。8月に動いている学生は、時間をかけて企業を見比べている層でもありますから、具体性が伝わりやすい相手でもあります。ちなみに、選考の途中で相手が離れていく現象と、入社後に「思っていたのと違った」が起きる現象は、原因の多くが重なっています。前者を減らす工夫はそのまま後者の予防になりますので、その全体像は採用ミスマッチを防ぐにはで扱っています。採用の後半戦は、追いかける速さより、見せる解像度で差がつく時期に入っているのかもしれません。
本記事の見解はWeaveXによるものであり、引用元各社の見解を代表するものではありません。調査数値は各調査の回答者の認識に基づくものであり、調査規模・対象はそれぞれ異なります。



