
インサイドセールスの立ち上げは、担当者を決める前に、営業へ渡す基準と戻す基準を手順書に書くところから始めます。基準がないまま専任を置くと、アポの数は増えても、営業が会うべき商談は増えません。この記事で扱うのは、分業する前のBtoB企業がインサイドセールスを立ち上げるときに決める4つのことと、その手順書の書き方。
インサイドセールスとは何か
インサイドセールスとは、電話・メール・オンライン会議で見込み客に接触し、営業が会うべき商談をつくる役割です。渡された商談を提案と交渉で受注まで進めるフィールドセールスと、仕事を分けて使います。
分ける理由は、商談をつくる仕事と進める仕事では、1日の時間の使い方が違うからです。1人の営業が両方を持つと、目の前の提案準備が優先され、まだ温度の低い見込み客への連絡は後回しになります。インサイドセールスを置く目的は、この後回しになっていた連絡を、誰かの本業にすることです。
数字で見る、インサイドセールスの現在地
HubSpot Japanが2026年2月27日に公表した調査(2025年10月30〜31日実施・従業員50〜5,000名の企業に勤める経営者・役員、営業責任者、営業担当者の計1,545名)では、インサイドセールスの導入率は**39.5%**でした。2021年以降大きな変化はなく、直近1年以内に導入した会社の割合は減る傾向にあると報告されています。
この調査は、インサイドセールスを「電話・Eメール・DM・ビデオ会議などを用いた非訪問型の営業手法」と定義して聞いています。専任チームの有無を聞いた数字ではない。非訪問の営業を取り入れている会社まで含めても、4割にとどまるということです。
同じ調査で、マーケティング担当者がいる会社は7割程度。そのうち最も多かったのは「営業担当者が兼務」の**31%**でした。50〜5,000名をまとめて集計した数字なので、規模ごとの差は読み取れません。ただ、見込み客を集める人と商談を進める人が同じ、という状態は珍しくないことが分かります。
出典:HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査2026」(2026年2月27日・本文は転載せず要約しています)
もう1本、商談化がうまくいっている会社に絞った調査があります。ラクスが2025年9月18日に発表した調査(2025年8月21〜25日実施・平均商談化率が50%以上と答えたBtoB企業のインサイドセールス、フィールドセールス、マーケティング担当者118名)では、商談をつくる活動の課題として「営業リソースが不足している」が50.0%、「リードの優先順位付けがうまくできていない」が**39.0%**で上位に並びました。
出典:ラクス(配配メール)(2025年9月18日・本文は転載せず要約しています)
商談化率が高いと答えた会社でも、4割近くが「どの見込み客から当たるか」の判断に困っています。人を足すことと、当たる順番を決めることは、別の課題として残っているわけです。
専任を置いても商談が増えないとき、何が起きているか
営業が2〜5名の会社で、1人をインサイドセールスの専任にした場面を考えます。
専任になった人は、まず何を目標にするかを聞きます。決まっていないので、代表は「アポを月に何件」と数で答える。担当者は数を追い、条件に合うかどうか分からない見込み客にも日程を入れます。営業は会ってみて「予算も時期もない。対象外だった」と感じ、次からはインサイドセールスが取ったアポを後回しにする。担当者からは「せっかく取ったのに進めてもらえない」という声が出ます。
このとき、どちらの言い分も間違っていません。足りないのは、どの状態なら営業へ渡すかという基準です。基準がないので、担当者は数で評価され、営業は自分の感覚で受け取るかどうかを決めています。
もう1つ起きるのが、営業が受け取らなかった見込み客の行き場がないことです。「今ではない」と判断された会社が、誰の手元にも戻らないまま止まる。半年後に状況が変わっても、誰も連絡しません。
どちらも、担当者の腕を上げても直りません。人を替えても、同じ場面がまた起きる。
専任を置く前に決める4つのこと
立ち上げの前に決めるのは、次の4つです。
| 決めること | 中身 | 決めないと起きること |
|---|---|---|
| 誰に当てるか | 当てる見込み客の条件と、当たる順番 | 反応しやすい相手から当たり、売りたい相手に届かない |
| どの状態で営業へ渡すか | 有効商談と呼ぶ条件(課題・時期・決める人・予算のどれが分かっていれば渡すか) | 評価がアポの数に寄り、営業が受け取らない商談が増える |
| 渡せなかった見込み客をどう戻すか | 営業が受け取らなかった商談や途中で止まった商談を、誰が持ち直すか(インサイドセールスへ戻すか、閉じるか)と、次に連絡する時期 | 「今ではない」会社が誰の手元にも戻らない |
| 何を記録するか | インサイドセールスが聞いて残す項目と、営業へ渡すときの書き方 | 営業が初回の商談で同じことを聞き直す |
渡す基準は、営業と一緒に書きます。 インサイドセールスだけで書くと、営業が受け取らない基準になります。最初は「課題が言葉になっている」「検討する時期が半年以内」のように、2〜3個の条件で十分です。条件が多いほど、渡せる商談が減ります。
戻す基準は、渡す基準と同じ日に決めます。 たとえば「時期が合わない会社は、インサイドセールスへ戻して3か月後に再連絡」「対象外の会社は理由を残して閉じる」。扱いは2〜3通りで足りる。営業が次の連絡予定を入れないまま止めている商談を、定期的にインサイドセールスへ戻す運用を入れている会社もあります。戻す経路があれば、営業の手元に動かない商談が溜まらず、商談の見込みの数字も実態に近づきます。
記録の項目を決める起点は、営業が初回の商談で最初に聞きたいこと。 営業が知りたいのは、相手の課題と、いま連絡してきた理由と、決める人が誰かです。インサイドセールスがそれを聞いて残しておけば、営業は初回の商談を提案から始められます。
誰に当てるかは、営業リストの作り方と同じ問題です。 当てる条件と外す条件を先に決め、条件ごとに反応の差を見ます。
手順書は1枚から始める
4つの決めごとは、1枚の手順書にまとめます。管理はスプレッドシートで十分。立ち上げ期は条件を何度も書き直すので、列を足し引きしやすい道具のほうが扱いやすい場面もあります。
書くのは、代表か営業責任者と、最初の担当者の2人です。最初の1か月は、週に1回、営業が受け取らなかった商談を一緒に見て、渡す基準と戻す基準を書き直します。受け取らなかった理由が同じものに偏っていれば、その条件を基準に足します。
マーケティングを営業が兼務している会社でも、出発点は同じ手順書。専任を置く前に兼務の段階で書いておけば、あとで担当を分けたときに、手順書がそのまま2つの仕事の境目になります。紹介だけで商談が足りていて、分業しなくても回っている会社は、無理に専任を置く必要はありません。紹介が細ったときに、先に書いておいた手順書がそのまま使える。
インサイドセールスが立ち上がらないという悩みは、売上の入口、つまり商談の量を詰まらせます。インサイドセールスの担当者を採用しても、外部の代行会社に任せても、渡す基準と戻す基準が決まっていなければ、返ってくるのはアポの数だけです。営業が受け取る商談の数は戻りません。
GTMエンジニアリングとは、営業戦略を起点に、売上を生み出し続けるGTM(Go-to-Market)の仕組みを設計・実装・定着させることです。インサイドセールスに当てはめると、渡す基準と戻す基準を書いて終わりにせず、受け取らなかった商談の理由を毎週集めて基準を書き直し、戻した見込み客に次の連絡日が自動で上がってくる運用を現場に組み込み、担当者が替わっても同じ判断で商談が渡る状態までつくることを指します。インサイドセールスが当てる相手の条件の決め方は、営業リストの作り方で詳しく書いています。
専任を置く日より先に、営業へ渡す基準を書く日を決める。そうすれば、最初の担当者は初日から、営業が受け取る商談をつくる仕事を始められます。
本記事の見解はWeaveXによるものであり、引用元各社の見解を代表するものではありません。
よくある質問
- インサイドセールスの立ち上げで、最初にやることは何ですか?
- 担当者を決める前に、どの状態の見込み客を営業へ渡すかという基準を書きます。あわせて、営業が受け取らなかった見込み客をどこへ戻すかも決めておきます。この2つがあれば、担当者が誰でも同じ判断で商談を渡せます。
- インサイドセールスとフィールドセールスの役割の違いは何ですか?
- インサイドセールスは、電話やメール、オンライン会議で見込み客に接触し、営業が会うべき商談をつくる役割です。フィールドセールスは、渡された商談を提案・交渉して受注まで進める役割です。2つの間で「どの状態なら渡すか」が決まっていないと、分業しても商談は増えません。
- インサイドセールスは専任を置かないと始められませんか?
- 始められます。営業担当者が兼務している段階でも、渡す基準・戻す基準・記録する項目を書き出しておけば、あとで専任を置いたときにそのまま引き継げます。先に手順書があるほうが、専任を置いたあとの立ち上がりが早くなります。



